梵鐘(釣鐘)ができるまで

 近江の伝統産業である「長村鋳物師」の梵鐘づくりは、「外型(そとがた)」と「中子(なかご)」の二つの「鋳型(いがた)」を作り、これを重ね合わせた時にできる隙間に溶けた金属を流しこむ「惣型法(そうがたほう)」が主に用いられてきました。

 その工程を簡単にまとめると、次のようになります。
■1.原図を描く
 新しい梵鐘を作るときには、まず紙の上に実物大の梵鐘の図を描きます。この線が外型の引型の線になります。
 その図案に、梵鐘中央の縦に半断面を描き込みます。これが、中子(中型)の引型の線になります。


梵鐘の寸法

▲ページの先頭に戻る

■2.引型(木の廻し型)を作る
 紙の上に出来上がった図から木型を起こしてゆきます。しかし、まったく新しい型の梵鐘でない限り、既存の木型(廻し型)を使います。
外型と中子(中型)の隙間が、梵鐘の音を左右する厚みとなりますので、昔から繰り返し使われてきた廻し型には、修正と工夫が積み重ねられているのです。
 引型は、それぞれの鋳物師が受け継いできた技術と経験の凝縮であるともいえます。


引型

▲ページの先頭に戻る

■3.鋳型を作る
(1)鋳型材料を調整する
 鋳型を作る土のことを「真土(まね)」といいます。砂と粘土と焼土の粉末を混合したものです。長村では、一度焼けた土を粉砕し陶土を水で溶いたもの(粘着力があって土を固める作用をする)で練った泥状の土を総称して真土といい、細かさや粘着水の濃さを変えて使い分けをします。

 真土などの鋳型土は、鋳物師の活動に欠くことのできないものです。原料の地金は、容易に運搬できますが、鋳型土は大量に必要であるうえに運搬は困難で、しかも、砂だけでなく、良質の粘土も必要となると、鋳物師が定着して活動するためには、それらを産する土地であることが要件となります。
 長村のある滋賀県湖東地域は、かつて瓦業も盛んなところでした。瓦も粘土が必要であることから、この辺りの土地が瓦や鋳物に適していたことがわかります。


真土を作る

▲ページの先頭に戻る

(2)「外型」を作る
 「外型」の鋳型は、中央に立てた引型を回転させながら、外枠の内側に真土を塗り付けて整形して作ってゆきます。
 外型の外枠は、現在は金属製の金枠を用いていますが、昔は当然外枠も作りました。この外枠を「クレ型」といいます。
 クレ型は、「コンニャク」と呼ばれる長方体の日干し煉瓦を、桶を作るように円形に並べ、真土で接着しながら形作って行き、竹のタガで補強しました。「コンニャク」は、真土とともに、外型、中型を製作するためのの基礎材料です。

 外型は、作成する梵鐘の大きさに応じて、あとで2~4つに分割できるように作ります。外型を分割する前に、梵鐘の縦帯(「六道」という)や、浮き出し文字のための「雄型」を表面に打ち込んでおきます。


外型を作る

▲ページの先頭に戻る

(3)「中型(中子)」を作る
 長村では、中型を「中子」(なかこ)といいます。外型と同じように、コンニャクを中子用の引型に添って積み上げて行きます。コンニャクの接着と表面の整形には真土を使います。コンニャクを積むとき、補強のために「スジガネ」をいれますが、中は空洞になっています。

 中子作りは、長村で「型ツボ」とよぶ穴の中で行われていました。これは、コシキ炉から「湯」(溶けた金属)を注ぐのに、高低が必要であるためです。外型を重ねた時、湯口がコシキ炉から来る桶(とゆ)の先と同じ高さになるように、穴の底を「台木」と「定盤(じょうばん)」で調節します。


中型を作る

▲ページの先頭に戻る

(4)文様を埋め込む
 梵鐘の表面の文様や乳(イボ)は、あらかじめその部分だけの「抜き型」を作っておき、それを「外型」の適切な場所に埋め込んでいきます。
 昔は、文様の抜き型を作るための「雄型」も粘土を彫って作っていましたが、今は木製で、主に、木彫師の里として知られる滋賀県米原市上丹生(かみにゅう)地域の木彫職人に外注しています。


イボ(乳)の抜き型を埋め込む

▲ページの先頭に戻る

(5)龍頭と湯口
 梵鐘の釣り下げ部分を「龍頭(りゅうず)」といいます。これも、木製の「雄型」を粘土で抜いて作ります。昔は、龍頭も鋳物師が粘土を彫って作っていたそうです。
 「湯口」は、鋳型に溶かした金属を流しこむ部分のことです。
 「龍頭」と「湯口」は、「外型」の最上部(笠型)に埋め込みます。


龍頭の型

▲ページの先頭に戻る

(6)スナダメ
 こうして仕上がった鋳型は、よく乾燥させ、焼き固めて強度を強めます。
 鋳込みの前には、実際に一度中子に外型をかぶせて、隙間に乾いた砂を入れ、その量をはかる作業をします。これを「スナダメ」といい、これによって、梵鐘鋳造に必要な原料(銅や錫)の量を算出します。
 長村では、「砂1升に原料4貫(約15キログラム)」と伝えられています。入る砂の量が少なかったり多すぎたりする場合は、中子を削ったり厚くしたりして微調整します。


炭で型を焼き固める

▲ページの先頭に戻る

■4.鋳込み
 表面に「クロミ」(黒鉛の粉)を塗ると、「鋳型」は完成です。型合わせした鋳型は、「鋳込み」の時にバラけないよう、しっかり「型締め」をします。
 そして、溶解炉で原料を熱して溶かし、その時の気温や湿度などを考慮しながら炉内の温度や状態がちょうど良くなったタイミングを見計らって、炉の原料を鋳型に流し込みます。

 昔の鋳込みは、足踏み式の大きな「ふいご」の「タタラ」を踏んで、「コシキ(溶解炉)」の炭に風を送って、コシキの中の原料を溶かしていました。タタラは、タタラ場の梁に吊られた縄につかまり6人から8人で踏みました(映画『もののけ姫』でもこのシーンが出てきますね)。鋳物師たちは、タタラを踏みながら、窓越しに隣の鋳込み場のコシキから出る炎を見て、溶解の温度や状態を判断したそうです。
 また、コシキ炉で真っ赤に溶けた原料を鋳型に流し込むとき、コシキ炉から鋳型まで原料が桶を流れていく様が、まるでお湯を流したように見えたところから、溶けた原料が「湯」と呼ばれるようになりました。


型にクロミを塗る


鋳込みの瞬間

▲ページの先頭に戻る

■5.型ばらし
 鋳込みのあと、鋳型が冷えたら、「型ツボ」から鋳型を引き上げ、鋳型をばらしてゆきます。(今ではクレーンがありますが、昔は重い梵鐘を引き上げるのは、たいへんな重労働でした。)
このように、できあがった梵鐘を取り出すためには鋳型を毎回必ずばらさなければならないので、梵鐘づくりにおいて、鋳型を使いまわすことはできず、たとえ原図が同じであっても、毎回、一から鋳型を作らねばならないのです。


型ばらしの様子

▲ページの先頭に戻る

■6.仕上げ
 「中子」の鋳型土も取りのぞき、「外型」の継目に出るバリと、湯を流し込んだ部分の「セキ」を、タガネを使って槌で叩き落とします。
 また、表面の文様もタガネを使って仕上げます。
 金壽堂の技法は鋳型をとてもきれいに作るため、鋳込みのあとの仕上げ段階では、濡らした縄でみがきをかける程度で、本体に手を加えることはほとんどありません。


仕上げ

▲ページの先頭に戻る

『滋賀文化財教室シリーズNo.170』
(1997年11月20日発行,森容子著)
をもとに編纂